2011年8月2日火曜日

たのしい電子工作?

地震に引き続いて福島で起った最悪の原発事故から早や五ヶ月。
あの混乱の三月に関東東北に舞い降りたエンジェルダストの見えない恐怖におののいた俺は、直ぐさまネットから情報を検索して、放射線検知器の制作に着手した。
まず、塩化ビニール管をナイロン等の繊維で擦り合わせる事により発生する静電気を、プラスチックのコップとアルミを利用して作った簡単な蓄電池に、カメラのフイルムケースにライターの燃料として用いられるブタンガスを注入充満させたガイガーミュラー管もどきに接続し、ラジオのノイズで放射線を感知する簡単な物を作ったが、これがまったく無反応。うんともすんと言わず、ただ塩ビ管を虚しく擦り過ぎて肩の筋を痛め、次の日の仕事をつらくしただけであった。

だが、俺は諦めずに軽やかに次の手段へ蝶のようにシフトする。
使い捨てカメラを使ったより高度な放射性探知システムの製作である。
だが、それには素人の手作りのGM管もどきなどではもはや用をなさぬ。本物のプロの仕事をするGM管が必要になるのだ。
俺は、ヤフーオークションで、冷戦時代にロシアで実際に使われた小型のGM管を落札。入札のボタンを押した時、俺はにわかにロシア兵がツンドラの森林の中のミサイルサイロで、孤独に飲むウオッカの匂いをかいだような気がした。
ネットを散見して、幾つかの使い捨てカメラを改造する手だてを学ばして頂き、久しぶりのハンダ付けに挑む。松ヤニの煙にむせながら(うそ)何とか一号機を、感電(500vくらいあるのでビリビリというよりも、物理的な鈍痛に近い)しながらも完成させGM管を取り付けた。節電対策で部屋の照明を極限まで落とした、まるで灯火管制のような暗い室内で、それは、まるで命のようにポッと灯った。やった反応したのだ。何らかの放射線をこの子が見つけてくれたのだ。これでもう大丈夫。俺はもう死神の鎌をよける事が出来るのだ。ルンルン気分で棒の先に取り付けたGM管を得意げに掲げてアパートの周囲を測定しまくったが、どうもその反応にムラがあるように思えた。何かがおかしいと思っていると、GM管の中央部のコイルが赤く光りぱなしになっている事に気がつく。いかん連続放電だ!しらべて見たら、電気がGM管を流れ続けないように、必要箇所に抵抗をつけないといけないと分かった。次の日おれは直ぐさま秋葉原まで行き、電気部品の謎に満ちた記号や複雑怪奇な種類に目を回しながらも何とか購入して帰宅。さっそくとり付けてみたが、どうも調子が思わしくない。どうやら、GM管の感度が大幅に下がったようである。連続放電でガラス管内部のガスがおかしくなったのかもしれない。俺は、流石につかれ果て、一時ガイガー計画を中止する事にした。一つには予算を使い果たしたというのもあったが。
それから3ヶ月、なるべく被爆量を減らすように努力しつつも、清掃というバイトゆえに、集塵をせねばならないので、必然的に放射性物質との近しい立場に危機意識を持つ。今の俺の環境は大丈夫なのだろうか?という懸念から、ふたたびガイガープロジェクトの旗を掲揚する事にした。
今度は、最初から確実に機能する物にしようと、国内の完成品やキットを探すも、品切れや在庫なしと来た。では外国だってんで、アメリカの電子工作のサイトから円高の追い風に乗って、アルファー、ベータ、ガンマを検知出来る小型放射線検知器のキットをドキドキもので購入。幸いな事に騙されるような事もなく、数日後には荷物は到着。さっそく製作にかかる。

当然ながら英語で書かれた組み立て説明書と格闘すること3時間。脳細胞が熱をもってグラグラして来たが、ハンダをびゅんびゅんと振り回して大奮闘し、ほどなく完成!早速スイッチを入れてガイガーちゃんの産声を聞こうとおもったが、どうも反応が芳しくない。はて?と思ってテスターという電圧などを計測できる機器でGM管の+と−を計ってみたら50ボルトくらいしかない。ばかな、説明書(英語だから読めない)には600ボルトと書いてあったじゃんかよう。どこかハンダの接触不良でもあるのだろうか?と色々とやってみたがどうにも分からない。ここですぐに思考が飛躍するのは、九州人の悪い癖で、部品が何らかの原因で不良をきたして動作出来ずにいるのだと考えて、それを取り替えれば、動作するはず、しかし私の知識では、その当該箇所の特定は非常に困難である。で、ここで「では、全部取り替えればいいじゃない」とアントワネット的に飛躍する。
だが、折しもアートブックフェアの期日が迫ってきており、まだほとんど製作出来ずにいた、俺は加熱したハンダのコンセントを抜いて、鉛筆を握らなければならず、泣く泣く(えっ)ガイガープロジェクトから離れたのであった。
そのアートブックフェアも終わり、猛暑でやや夏バテ気味であった俺は早速、あの奇妙な電子都市アキハバラへ飛ぶ。平日の昼間にも関わらず、がさがさと道を行き来する男たちと、奇抜な衣装で客引きをするかわいいメイドさんたちを躱しながら、主に電子部品をお店を何軒か梯子して、ガイガーキットに使われている部品のかなりの数を手に入れる事が出来た。何分素人である為、どうにも説明書に書かれたアメリカ人の大雑把な部品の説明だけでは理解の及ばぬ所もあって、購いかねる物も幾つかあったが、それは当該機からの部品を流用する事にして、汗と埃にまみれた体を地下鉄のシートに委ねて帰路に着いた。
次の日、さっそく改修に取りかかる。まず全てのハンダを一度吸い取り線と呼ばれる銅を細かく編み込んだ線で吸い取って、基盤上に付けられていた備品を全て取り去る。そして、抵抗、コンデンサ、ダイオード、LED、トランス等を取り替えられるものは全て取り替え再びハンダで接合。
今回は勝手が分かっていた為か、一時間ほどで作業完了。さっそく電池を繋いでスイッチを入れて見る。そして再びテスターで計ってみたが前と変らない。何故だ?だがネットで色々と検索していた時に、このキットはどうやら写るルンですを改造した放射性感知機が直流だったのに対して、どうやら交流がGM管にかかっているらしく、もしかしたら測定に仕方に問題があるのかもしれないと考えルに至った。と言う事はもしかしたら、これはこれで完成していて、俺はいつもごとく早合点して、無駄な時間と労力とコストを消費したのでは無いかと愕然とし、急いで鏡を覗き込んだが、幸いな事に額には”敗北”の文字は刻まれていなかったが、それでもやはりその顔は勝者には見えなかった。
その放射能測定器は、スイッチを入れていても自然放射線の検出は一分間に一つか二つ程度であり、非常に大人しいものだったが。。。。

購入したアメリカのサイト

この趣味と実益を兼ねたプロジェクトもようやく一段落ついたので、そろそろ本業のほうを何とかしねえと、今度はお前自身がメルトダウンだぜという脳内物質が分泌されたので、またがんばろうと思います。人が生きる事、存在する事は意味があるのか無いのか?という形而上の問題は、取りあえず一旦おいて、何もしなかった日の夜寝る前、朝起きる時に感じる、あの罪悪感のような物は、確実に内蔵的に形而下的に存在しており、あのいやな気分に対処するには、実際にいい仕事をする為にがんばる他はない。結局の所、人は、いや俺はそんな程度のものであり、またそれをため息をつきつつも認めて前進するしかないのだろう。魂の安息があるとした、与えられた俺と言う人間(ゲノム)の能力の限界に出来うるだけ近づきえたなら、たとえ倒れふしたしても、ほかならぬ俺の魂は俺を許してくれるに違いないのだから。